高齢者の孤独死
私がまだデザイン以外の雑務が忙しかった昔、
勤め先の会社が新設した駐輪場の運営を、ほぼ丸任せにされていたことがありました。
その際、早番の管理人として『Tさん』という高齢の男性を雇っていたのですが、
そのTさんがある朝、何の連絡もなく出勤してこなかったのです。
私自身も、管理するその駐輪場に自転車を停めてから出勤するため、いつもなら先に働くTさんに挨拶をして事務所へ向かうのですが、
その朝、管理人室に人気はなく見渡してもTさんがいる気配がありません。
これはおかしい
無断欠勤や寝坊は絶対にあり得ない!
そう断言できる生真面目な人でした。
というかTさんはいわゆる、
融通の利かない馬鹿正直タイプだったので、駐輪場の利用者と揉める事もしばしば・・
そんなTさんですから、突発的な事故やトラブルがあったとしても真っ先に会社に電話してくるはずでした。
私は、独り暮らしのTさんが自宅で倒れているのではないかと心配になり、
最寄りの派出所の番号を調べ、自宅に様子を見に行って欲しいと頼みました。
あとで思うと、何であんなに躊躇なく警察に電話できたのか・・・
死因はお風呂場の入浴事故
それが朝の9時過ぎ。
それから2時間ほどして、警察からTさんが亡くなっていたと連絡がありました。
悪い予感は当たっていたのです。
直接の死因はわかりませんが、Tさんは入浴事故で亡くなってしまったのでした。
高齢者の溺水のほとんどは入浴中の意識障害にともなう入浴事故に起因します。入浴中の死亡事故は年々増えています。平成11年(1999年)度の全国の入浴中急死年間約14,000人1)、交通事故死(年間約10,000人前後)よりも多くみられます。
入浴中の急死・急病の原因は、心肺停止(呼吸・心臓の停止)、脳血管障害、一過性意識障害(失神)、溺水・溺死とされます。入浴事故は冬期に、かつ寒冷地に多く、また心肺停止は自宅の浴室での発生がほとんどで、人目の多い公衆浴場では認められていません。
入浴事故死はシャワー浴が主なアメリカやヨーロッパでは極めて少ないです。ですので、入浴事故死は日本に特有の入浴形式(浴槽につかる)が入浴中急病・急死の誘因と考えられています。
入浴中の事故死の増加の原因として、高齢者の人口比率の増加、核家族化の進行や内湯の普及といった社会的要因と、入浴にともなう循環動態や自律神経系の変化といった内的要因があげられます。
引用元:公益財団法人長寿科学振興財団『健康長寿ネット』より
経緯を確認したいというので警察から出頭を求められましたが、
当時の私はアルバイトでしたから、会社としても私を行かせる訳にはいかず、
そのため社員に事情を説明して、代わりに警察に行ってもらいました。
追い焚きで遺体が溶けた
ところが、
戻ってきたその社員が妙にハイテンション。
実はTさん、
入浴中に運悪く浴槽の中で意識を失い、そのまま溺死してしまったのですが、
間の悪いことに追い焚きをしていたため、
遺体が溶けてタール状となり、浴室は想像しがたい惨状となったとか。
そして、こともあろうにその社員は、
警察でその現場検証の写真をみせてもらったと喜んでいるのです、、
グロいグロい!凄まじかったよ!!
元自衛隊員という経歴の彼でしたが・・
信じられない・・
後日、
親類の方から会社宛にお礼の菓子折りが届きました。
Tさんが暮らしていたのは、密集する住宅街の古い平屋の一室だったので、
あの時、私が警察に連絡をしていなければ発見が遅れ、
近隣を巻き込む延焼火災になった可能性が高いというお話でした。
浴槽が干上がった状態で追い焚きが続き、風呂場全体に熱が回り発火寸前だったそうです。
電話しといて良かった
しかし、
この事を思い出す度に胸を過る感情は、良いことをしたという晴れ晴れした気持ちとはほど遠いもので、
社員が嬉々として語った現場の描写と、
そんな風にして亡くなってしまったTさんが、普段みせたちょっと滑稽な姿が相まって、
なんだか暗く淀んで、どこか寂しい気持ちがするのでした・・・